歯周病治療・歯周病研究 論文紹介003(no.011-015)
No.015
Ng MC-H, Ong MM-A, Lim LP, Koh CG, Chan YH.
Tooth loss in compliant and non-compliant periodontally treated patients: 7 years after active periodontal therapy.
J Clin Periodontol 2011; 38: 499-508.
専門医施設での歯周動的治療(APT)(訳者中:歯周基本治療や歯周外科処置など)と歯周病メインテナンス(PM)の間における、歯の喪失発生率やその理由を検索した。後ろ向き研究のデータは273名の歯周病メインテナンス遵守者(AC)から得られ、横断的データはAPTの後少なくとも7年間PMが途切れた39名(NC)から得られた。ACはAPT間に患者一人あたり1.3本、PM間(平均10.7年)に患者一人あたり0.9本、歯を喪失した。うち歯周病が原因の喪失は0.03本/患者/年であった。年齢60歳以上はPM間の歯牙喪失の有意な予測因子であった(オッズ比2.1)。NCはAPT間に1.1本/患者、メインテナンスが途切れた間(平均9.6年)に2.7本/患者の歯を喪失した。うち歯周病が原因の喪失は0.22本/患者/年であり、ACに比較して7倍以上であった(P<0.05)。回帰分析では、PMが途絶えた間に歯を喪失した有意な予測因子を同定することはできなかった。この研究から、APTの後平均10年間で、PMにより、歯の喪失、特に歯周病(歯周炎)による歯の喪失が最小限におさえられていた。PMをおこなわなわずAPTで終了してしまうことは、PMを受けていた患者と比較するとより多くの歯を喪失しやすいのかもしれない。(2011.5.21
追記)歯周病、歯周炎、歯周治療メインテナンス、抜歯、歯の喪失
No.014
Toothbrushing and smoking among adolescents – aggregation of health damaging
behaviours.Honkala S, Honkala E, Newton T, Rimpela A.
J Clin Periodontol. 2011 May;38(5):442-8.
青少年について、毎日喫煙することと、ブラッシングをあまりしないこととの関連について検索した。14、16、18歳のフィンランド人(5643人)を調査の対象とした。14歳の若者では、8.5%が毎日の喫煙習慣があった。16歳、18歳ではそれぞれ25.0%、33.2%であった。1日に1回以上ブラッシングをおこなうのはわずか28.3-54.7%であった。14歳では、毎日の喫煙習慣があって、かつ1日に2回以上ブラッシングをおこなうものは、6.5%であった。16歳、18歳では同様にそれぞれ17.7%および21.6%であった。14歳では、毎日の喫煙と一日に2回未満のブラッシングしかしない者で、学業の遅れに、16歳と18歳では学歴に、強い相関が見られた。結論として、毎日の喫煙とブラッシングをまれにしかしないこととは、青少年において強い相関が認められた。(2011.5.15
追記)歯周病、喫煙、ブラッシング
No.013
Toyoko Morita, Yoji Yamazaki, Ayae Mita, Koji Takada, Misae Seto, Norihide
Nishinoue, Yoshiyuki Sasaki, Masafumi Motohashi, and Masao Maeno
A Cohort Study on the Association Between Periodontal Disease and the Development of Metabolic Syndrome
Journal of Periodontology 2010, Vol. 81, No. 4, Pages 512-519
歯周病とメタボリックシンドロームとの関連について報告がなされているが、その詳細は未だ十分には解明されていない。本研究では、歯周病とメタボリックシンドローム要因の変化との関連を検討した(被験者1023名、男性727名、女性296名、平均37.3歳)。歯周ポケットの存在は、4年の観察期間における1あるいは2以上のメタボリックシンドローム因子の陽性転化と関連が認められた(オッズ比(ORs)は1.6、95%信頼区間(CIs)は1.0-2.1)。それぞれのORsは1.4および2.2であった。メタボリックシンドローム要因のうち血圧と血液脂質値の陽性転化は歯周ポケットの存在と有意な関連が見られた。歯周ポケットの存在は、メタボリックシンドローム要因の陽性転化と関連があり、従って歯周病の予防はメタボリックシンドロームの予防につながることが示唆された。(2011.5.8
追記)歯周病
No.012
Periodontal status of males attending an in vitro fertilization clinic.
Klinger A, Hain B, Yaffe H, Schonberger O.
J Clin Periodontol. 2011 Jun;38(6):542-6.
歯周病と、子宮内膜症を含めた種々の全身疾患に関連のあることが以前から指摘されている。男性の不妊に歯科の感染が関与する可能性のあることが示唆されている。この研究の目的は不妊パラメーターと、不妊クリニックや体外受精クリニックに通院する男性の歯周疾患との関連を調べることである。この研究対象は人工授精あるいは体外受精前に精子の解析のためにクリニックに通院している75人の男性であった。精子の性状はWHO基準に従って評価した。同じ日に、患者は臨床的な歯周組織の検査を受けた。
患者は歯肉炎(40%)、歯周炎(48%)と診断され、残りの12%は歯周組織は健康であると分類された。これらの患者では、正常精子は37%、精子減少症48%、無精子症が15%であった。家族性の不妊は、不妊に寄与するWHOパラメーターの少なくとも一つを有していることと関連があった。深い歯周ポケットがある部位の多数は精子の運動能低下と関連する傾向があった。また臨床的アタッチメントレベルと精子の運動能低下には有意な関連があった。
(私の感想:不妊と歯周病が関係あるのか!?と思って読んでみた。関連があるかも、であるが、因果関係まで検討されたわけではない。もし関係ありというなら、なんで?著者らは、ひとつに病巣感染。これは古くから唱えられる概念で、口の中の感染源が遠隔地の臓器に病変をもたらす、という考えである。二つめは、歯周病で生じるサイトカインの影響。三つ目には歯周病原性菌であるP.gingivalisのHSPとヒトの血管内皮上にも発現するHSPとが抗原性が類似しており、細菌に対する抗体が自己免疫疾患的に生体HSPと反応することになる。一方、HSPに対する抗体が不妊と関係しているらしい。
歯周病が精子の性状に影響して、不妊の原因になるかも、という可能性を示唆した論文でした。でも歯周病治療によきパパはたくさんいるけどね)
(2011.4.28追記)(2011.7.16差し替え追記)
No.011
Relationship Between Obesity and Physical Fitness and PeriodontitisYoshihiro
Shimazaki, Yuko Egami, Takeshi Matsubara, George Koike, Sumio Akifusa,
Sumie Jingu, and Yoshihisa Yamashita
Journal of Periodontology
2010, Vol. 81, No. 8, Pages 1124-1131
肥満や運動能力、と歯周病との関連について調べることを目的として、1160人の日本人の被験者(20-77才)を対象に研究をおこなった。community
periodontal index(CPI)を指標に、CPIコード3あるいは4を示す、6分画の3箇所以上を有する被験者を重度歯周病と定義した。肥満の指標としてMBIと体脂肪率を、運動能力の指標として運動中の最大酸素消費量(O2max)を用いた。これらを指標に被験者分布を区分けして検討したところ、最も低いBMIを示し、最も高いO2maxを示す被験者群が重度歯周病と逆の関連を示した。そしてこの群の被験者は他群の被験者に比較して、重度歯周病のリスクが有意に低かった。肥満と運動能力は歯周組織の健康状態に相互作用的な影響を持つのかもしれない。(2011.4.18追記)