歯周病治療・歯周病研究 論文紹介p020(no.062-067)
No.067
Progression of periodontitis in a sample of regular and irregular compliers under maintenance therapy: a 3-year follow-up study.
Oliveira Costa F, Miranda Cota LO, Pereira Lages EJ, Medeiros Lorentz TC, Soares Dutra Oliveira AM, Dutra Oliveira PA, Costa JE.
J Periodontol. 2011 Sep;82(9):1279-87.
我々の知る限り、歯周病メイテナンス治療(PMT)プログラムで歯周病の進行と歯の喪失において、コンプライアンスの影響を検討した前向き研究(性、喫煙と糖尿病)はこれまで報告されていない。
治療プログラムを定期的に受診した58人の患者(RC)と不規則に受診した患者(EC)とが、PMT受診者238人前向きコホートからリクルートされ、性、糖尿病、と喫煙習慣をマッチさせた。プロービング時出血(BOP)、プロービング深さ(PDs)、臨床的アタッチメントレベルと指数を含む全顎の歯周組織診査が3年間のすべてのPMT時におこなわれた。対象とした変数の影響は多変量ロジスティック回帰により検討された。
歯周病の進行と歯の喪失は、EC患者に比較してRC患者が有意に低かった。喫煙習慣のあるEC患者では、歯周炎のより著しい進行が観察された。RC群の歯周炎進行に対するロジスティックモデルには喫煙 (OR: 7.3)と>30% のBOP(OR:2.8)、そしてEC群の歯周炎進行に対するロジスティックモデルには喫煙 (オッズ比[OR]: 4.2)と>30% のBOP(OR:3.2)、10%部位で4から6mmのPDs(OR:3.5)、糖尿病(OR1.9)、そして喪失歯数(OR:3.1)であった。
RC患者はEC患者に比較して歯周病の進行や歯の喪失速度が低かった。この結果から良好な歯周組織維持にはコンプライアンスのパターンの影響が注目される。さらに、喫煙や糖尿病などの重要なリスク因子は歯周組織の状態に影響を与え、PMT受診のリスクプロファイルや受診間隔を決定する際に考慮すべきだ。
(私の感想など:ここで定期的に通院する患者RCの受診間隔は平均3.3±0.5ヶ月でEC患者は8.1±0.8ヶ月だ。それで歯周病の進行が前者では8.6%で後者では15.5%にみられたという。確かに不定期に通った人の方が、悪化率は高いのだが、どちらの数字も低いといえば低い。それはEC患者はまがりなりにも受診をしていたからだろう、と著者らは考察しており、私も同感だ。全く来なくなった人はどうなったか、それは受診していないので調べようがない。普通に考えれば、もっと悪くなっているのだろう。)
メインテナンス、患者コンプライアンス、歯周組織アタッチメントロス、リスク因子、歯の喪失
(平成23年12月25日)
No.066
Clinical trial of oral malodor treatment in patients with periodontal diseases.
Pham TA, Ueno M, Zaitsu T, Takehara S, Shinada K, Lam PH, Kawaguchi Y.
J Periodontal Res. 2011 Dec;46(6):722-9.
歯周病に罹患した患者における口臭への異なる治療アプローチを評価する研究は数少ない。この研究の目的は歯周炎患者と歯肉炎患者における、口臭パラメーターに及ぼす歯周治療と舌クリーニングの影響を評価することです。
被験者は口臭のある102人の歯周病と116人の歯肉炎患者であった。口臭は官能検査とOral Chroma?で測定された。歯の状態、歯周組織の状態、舌苔と舌苔によるBANA試験のタンパク分解活性を含む口腔内の状態が評価された。おのおのの歯周病群における被験者は治療(歯周治療と舌クリーニング)順に依存した2群にランダムに割り当てられた。口臭と口腔状態のパラメーターは群と治療順序により比較された。
歯周治療群における被験者では、歯周治療あるいは舌クリーニングの後に統計学的に有意な口臭の減少がみられた。しかしながら、主要な減少は歯周治療の後にみられた。歯肉炎群においても、歯肉炎治療あるいは舌クリーニングの後に統計学的に有意な口臭の減少がみられたが、著しい減少は舌クリーニングの後にみられた。治療の終了の後は、すべての口臭パラメーターが全ての被験者で閾値以下に低下した。
歯周病患者での口臭の減少に歯周治療は重要な役割を果たし、舌クリーニングはその関与が低かったことが、この研究から示された。対照的に、歯肉炎患者の口臭減少に、舌クリーニングのみがもっとも重要な方法と言える。
(私の感想など:わかりやすい結論だ。舌苔と歯周炎の口臭におよぼす影響は、歯周病患者なら歯周病の影響が大きく、歯肉炎では舌苔の影響が強いという。そして、両方をカバーすれば口臭は閾値以下になるという。ただ報告によっては舌苔のクリーニングと歯種治療だけでは口臭は改善しない場合があって洗口剤の使用も必要だという報告があるので口腔内のその他の影響もあるのだろう。
歯周治療をすると、舌苔の量も減少するというから舌苔への歯周ポケット細菌叢の影響がうかがわれる。)
口臭、歯周炎患者、歯周治療、舌クリーニング
(平成23年12月25日)
No.065
Factors associated with dental implant survival: a 4-year retrospective analysis.
Zupnik J, Kim SW, Ravens D, Karimbux N, Guze K.
J Periodontol. 2011 Oct;82(10):1390-5.
デンタルインプラントは喪失歯の代替として予知性の高い治療オプションのひとつで、強い固着性と成功率の高さを有する。しかしながら、従前の研究では、デンタルインプラントの失敗につながるかもしれない、潜在的なリスク因子が幅広く存在することが示されている。この研究の目的はインプラント生存率が、既知のリスク因子やインプラント失敗に寄与するかもしれないリスク指標に影響を受けるかどうかを検索することである。二次的な評価項目は歯周病専門医の研修医の経験レベルが成功率に影響するか、過去の報告と比較してハーバード歯科医学校(HSDM)のインプラント成功率がどの程度かも検討する。
2003から2006年まで歯周病専門研修医により、2種類のラフ表面インプラント(グループAあるいはB)のうちの一種を施術された、HSDMにおける患者のカルテを後ろ向きに評価検討した。人口統計学的、健康、とインプラントデータが収集され、失敗率やインプラント失敗の可能性を増加させるかもしれない因子を決定するために多因子モデル解析により解析された。
このコホート研究には341本のインプラントが対象となった。インプラント失敗のオッズ比は糖尿病(2.59)、インプラントグループB(7.84)、そして男性(4.01)で著明に上昇していた。研修医の経験年数に関しては統計学的な有意差はなかった。研究対象となった4年間で、HSDM歯周病専門医研修医による成功率は96.48%であった。この研究から、HSDMでのインプラント成功率は過去の報告にみられる範囲内であり、過去に示されているインプラント失敗因子が追認され、他の一般に認知されている因子がコントロールされていることが示唆された。さらに、歯周病専門医研修医の経験レベルはインプラント生存結果に影響していなかった。
(私の感想など:前回インプラント周囲炎に関する論文をみたので、今回はインプラントsのものに関する論文を取り上げた。
インプラント体で予後に統計学的な有意差があるという。オッズ比で糖尿病以上である。これは著者らの想定外だったろう。グループA、Bとしているが、本文ではもちろん商品名が書かれている。比較していたのは、straumannとNobel
Biocareで、予後悪しだったのは、Nobel Biocareである。
失敗症例自体の詳細な解析はない。成功率が高いからね。インプラント周囲炎など、インプラントの状態についての情報はない。長期予後がホントは気になるところだ。)
デンタルインプラント、糖尿病、失敗、研修医、リスク因子、喫煙
(平成23年12月23日)
No.064
A follow-up study of peri-implantitis cases after treatment.
Charalampakis G, Rabe P, Leonhardt A, Dahlen G.
J Clin Periodontol. 2011 Sep;38(9):864-71.
この後ろ向き研究の目的は、インプラント周囲炎の治療後を縦断的に症例をフォローすることである。
罹患したインプラントから採取された細菌サンプルの細菌学的解析に基づいて、スウェーデン イエテボリ口腔細菌診断学研究室の資料から281人の症例が選択された。9ヶ月から13年の期間に治療後245人の患者がフォローアップすることが可能であった。
54.7%の患者では、インプラント歯周炎の進行を抑止することはできなかった。喫煙と喫煙濃度がインプラント周囲炎の治療不成功と有意に関連していることが明らかとなった(p<0.05)初期の疾病進行もまた治療失敗と有意な関連があった(p<0.05)。手術の際に抗生剤を併用した骨形成術は病変進行阻止と有意に関連していた(p<0.05)。多重回帰型モデルから疾患の進行が、治療の正否を有意に占うことのできる唯一の独立変数であった。
インプラント周囲の健康を確立するのは容易ではないかもしれない。特に疾患が初期に進行してしまった場合にはそうである。経験的な治療の試みよりも均質な治療プロトコールが採用されるべきである。
(私の感想など:インプラント周囲炎を、エビデンスに基づいて治療できる方法は確立されていないと繰り返し述べられている。著者らはインプラント周囲炎の治療に有益な情報を得たいのだが、残念ながら悲観的な結論しか得られなかったようだ。カーボンファイバー、チタンキュレット、超音波デバイス、抗生剤や抗菌剤洗浄などの非外科的療法も治療の効果があるとは示されず、また種々の外科的療法も同様の結果のようである。
インプラント治療にはインプラント周囲炎になるリスクがあり、インプラント周囲炎に対する有効な治療法が確立されていないという現実。それでもインプラントにはそれを上回るメリットがある、ということでインプラント治療が続けられる、ということか。)
抗生物質、不成功、インプラント喪失、オッセオインテグレーション、インプラント周囲炎、成功、治療
(平成23年12月18日)
No.063
Gingival blood glucose estimation with reagent test strips: a method to detect diabetes in a periodontal population.
Shetty S, Kohad R, Yeltiwar R, Shetty K.
J Periodontol. 2011 Nov;82(11):1548-55.
歯周病は糖尿病の第6の合併症と考えられている。それゆえ、歯周病専門医の主要な責務として、本研究では、歯肉血糖と試験ストリップスを利用し、糖尿病の存在が懸念される歯周患者をスクリーニングした。
インドマハラシトラ州ナグールにある国立歯科大学病院で歯周病外来を受診した、糖尿病病歴のない356人が3群に分けられた。グループ1は歯周組織の健康な患者;グループ2は歯肉炎患者;グループ3は歯周炎患者である。上顎前歯部の歯間乳頭にランセットで穿孔させて得られた歯肉血が試験紙上に滴下され、反応色の変化が生じ、該当する糖濃度値を測定記録することができた。糖値120gm%以上(手順書に示されたグラフによる)の患者が、血糖状態を確認するために糖負荷試験を受けた。耐糖能に異常のある患者はさらに糖尿病確定診断のために内科医へ紹介された。
調査した被験者の19.1%に糖尿病が認められた。そのうち3.9%はグループ1に、7.8%がグループ2に、そして7.3%がグループ3に属していた。高血糖患者の40.8%に糖尿病が認められた。そのうち8.4%はグループ1に、16.8%がグループ2に、そして15.6%がグループ3に属していた。調査した被験者の糖尿病であった人で女性10.11%で男性8.99%であった。
歯肉血糖の評価に試薬ストリップスを用いることは、糖尿病の存在を疑わない歯周患者のスクリーニングに適当なオプションであると思われた。しかし、この方法の適正を確認するための大規模な追加実験が必要である。
(私の感想など:前回に続き糖尿病と歯周病である。
今回の研究では歯周科にきた患者さんのうち、俺って糖尿病だなんて言われたことはない、という人が母集団である。この集団を対象に、今回のスクリーニングに引っかかった患者という制約はあるが、調べたら実は糖尿病だった人の割合は、歯周組織が健康な人で7.6%、歯肉炎の人が28.6%、歯周炎の人が34.7%である(グループ枠をはずして平均すると要約にあるように19.1%になる)。これはインドの話で、インド(都市部)での糖尿病の罹患率が9%だそうで、実は糖尿病だけどそうとは知らない患者は7.2%と推測されているようだ。健康な歯周組織なら、調べたら実は糖尿病であったという人が一桁なのに、歯周病であるとその1/3は糖尿病だったということだ。「侵襲性歯周炎は糖尿病だ」と大上段に振りかざしたくなる人がいるのはわからなくもない。
歯周病なら糖尿病を調べてもらいましょう、と内科なり糖尿病専門医へ紹介するのは、あまり一般的ではない。どうせなら、何か検査所見があって、糖尿病が疑われますと言いたいところだ。歯科で採血は嫌がられるだろうから、この研究で用いているような口腔内からのサンプリング方法は抵抗感がすくないので、これで有効なスクリーニングができるなら、よろしかろう。指先採血などあるのだが、、、僕はちょっと、、思うタイプです。)
血糖、糖尿病、歯肉、歯肉炎、耐糖能テスト、歯周炎
(平成23年12月9日)
No.062
Do patients with aggressive periodontitis have evidence of diabetes? A pilot study.
Davies RC, Jaedicke KM, Barksby HE, Jitprasertwong P, Al-Shahwani RM, Taylor JJ, Preshaw PM.
J Periodontal Res. 2011 Dec;46(6):663-72.
糖尿病と歯周病には複雑な関連性が存在する。糖尿病は歯周病に対するリスク因子として認知されており、最近のエビデンスは両疾患に双方向性の関連が存在することを支持している。炎症、脂質、アディポカインが両疾患の関連を媒介しているとの仮説がたてられている。しかしながら、侵襲性歯周炎に関して上述の関連に関する研究は限定的である。このパイロット研究は、侵襲性歯周炎患者(過去に糖尿病の診断を受けていない者)が糖尿病であるというエビデンス、あるいは炎症メディエーター、脂質やアディポカインの血清レベルで変化があることを検討することである。
30人の侵襲性歯周炎患者と30人の年齢と性がマッチした歯周組織の健康なコントロール被験者から得られた血清サンプル中の糖コントロールマーカー(血糖値や糖化ヘモグロビン)、炎症メディエーター(高感度c反応蛋白、tumour
necrosis factor-α、 interleukin-1β、 interleukin-6、 interferon-γ とinterleukin-18)、脂質(トリグリセリド、総コレステロール、高密度リポ蛋白質コレステロール)とアディポカイン(レプチン、アディポネクチン、とレジスチン)が測定された。これらの被験者のいずれも過去に糖尿病とは診断されていなかった。糖コントロールマーカー、炎症メディエーター、脂質やアディポカインレベルは、侵襲性歯周炎と健康被験者間で、非調整あるいは調整解析(BMI、喫煙あるいは民族、年齢と性で補正)をおこなったが有意差は見られなかった(p
> 0.05)。女性のコントロール被験者に比較して、女性の侵襲性歯周炎患者におけるアディポネクチンの補正解析に対するp-valueは0.064に達した。このとき、女性の侵襲性歯周炎患者では平均アディポネクチンレベルが低下していた(4.94
vs. 5.97 μg/mL)。
このパイロットスタディからは、侵襲性歯周炎患者(過去に糖尿病の診断を受けていない者)が糖尿病であるというエビデンスや炎症メディエーター、脂質やアディポカインの血清レベルが変化していることを示唆する所見は得られなかった。
(私の感想:なんか大胆な仮説だね。侵襲性歯周炎だと糖尿病!?TNFαを含めた種々の炎症性マーカーでも有意差なしで、結論としても今回の研究では有意差なしだからね。
どうだろう、症例数を増やしたら、有意差でるだろうか。
この論文イントロやディスカッション、やたら長い。すっきりした結論が出なかったので、色々と言い訳めいたことがたくさんあったようだ、と思ってしまった。)
侵襲性歯周炎、歯周病、糖尿病、アディポカイン
(平成23年12月8日)