歯周病治療・歯周病研究 論文紹介p048(no.201-205)
No.205
The effect of periodontal treatment in improving erectile dysfunction: a randomized controlled trial.
Eltas A, Oguz F, Uslu MO, Akdemir E.
J Clin Periodontol. 2013 Feb;40(2):148-54.
この研究の目的は、重度もしくは中等度勃起不全(ED)かつ慢性歯周炎(CP)の患者に対し歯周治療をおこなった後の、国際勃起機能スコア(IIEF)の変化を評価することである。
著者らは利益相反のないことを宣言する。この研究対象者は重度あるいは中等度EDのCP患者120人からなる。治療群(n=60)は歯周治療を受けた患者から成り、コントロール群(n=60)は歯周治療を受けなった患者であった。ベースライン時、両群に対し介入をおこなった後1ヶ月(R1)と3ヶ月(R2)に臨床評価がおこなわれ記録された。歯周組織診査はプラーク指数、プロービング時出血、プロービング深さ、と臨床的アタッチメントレベルの評価が含まれた。IIEF質問票がED程度を評価するのに用いられた。
R1とR2時点で、治療群は全ての臨床的歯周組織パラメーターの、コントロール群以上の改善がみられた(p<0.05)。IIEFスコアの治療群におけるR2時点での増加はコントロール群以上であった(p<0.05)のに対し、R1時にIIEFスコアは両群で同程度であった(p>0.05)。
この研究の所見から、歯周治療はEDの改善に付加的な有効性を提供した。しかし、両疾患の関連性のメカニズムを解明するために、さらなる研究が必要である。
(慢性歯周炎、勃起不全、炎症、歯周治療)
(IIEFとは、International Index of Erectile Function(国際勃起機能スコア)の略である。EDのスクリーニングや治療の効果判定に使われているようだ。判定のための問診票は、ED(Erectile
Dysfunction:勃起機能の低下)判断するもので、問診票の合計点数が低い程、EDが強く疑われることになる。
2012年の後ろ向き研究で、32,856人のED患者と162,480人のコントロール患者を解析して、ED患者はコントロールに比較して、3.5倍慢性歯周炎と診断されていることが報告された。血管内皮細胞の機能低下はEDのリスク因子である。そして全身的な炎症が血管内皮細胞の機能不全を促進する可能性が指摘されている。一方、歯周治療が血管内皮の機能を改善させるという報告がある。このような背景から、歯周病がEDを惹起しているのかも、ということがささやかれているわけだ。
そのメカニズムで注目されるのは、サイトカイン特にTNF-α。というのもTNF-αが血管系に作用するために、EDの病態と関連しているのではないかと考えられている。事実ED患者では、EDでない患者に比べて血漿中のTNF-αが亢進しているという報告もある。歯周病患者でも血清や唾液中のTNF-αが亢進しているとの研究、そして歯周治療でこの局所や全身のTNF-αが減少するとの報告があるが、否定的な研究もある。そのため糖尿病と同じくTNF-αを介した関連に着目されているが、EDとCPに関連があるにしても、そのメカニズムが十分に確固として解明されているわけではない。)
(平成25年2月21日)
No.204
Failure to detect an association between aggressive periodontitis and the prevalence of herpesviruses.
Stein JM, Said Yekta S, Kleines M, Ok D, Kasaj A, Reichert S, Schulz S, Scheithauer S.
J Clin Periodontol. 2013 Jan;40(1):1-7.
単純ヘルペスウイルス1(HSV-1)、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)とエプスタインバールウイルスは歯周炎の発病に際し、原因因子として重要な役割を果たしている、という仮説が提示されている。この研究の目的は歯周組織の健康なコントロールと比較して、広汎型侵襲性歯周炎に罹患している白人患者の歯肉縁下サンプル中におけるこれらのウイルス有病率を決定することである。
ドイツの侵襲性歯周炎患者65人とマッチしていないコントロール65人とがこの研究で研究対象となった。歯肉縁下サンプルがHSV-1、EBV とHCMVについてリアルタイム定量PCRを用いて解析された。
HSV-1とHCMV DNAは患者とコントロールの1.5%で検出され、一方EBV DNAはそれぞれ10.8%と13.9%であった。HSV-1
(76.1% versus73.9%)、 EBV (98.5% versus 96.9%),、HCMV (47.7% versus 46.2%)に対する血清IgG、およびHSV-1
(6.2% versus 1.5%)、 EBV (0% versus0%)、HCMV (0% versus 1.5%)に対する血清IgMの検出比率は患者とコントロール間で有意差がなかった。
今回の研究データは、ドイツ住民においてHSV-1, EBV or HCMVが侵襲性歯周炎発症に寄与していることを何ら示唆しなかった。人種や研究方法の違いが過去の研究結果との相反原因となっているのかもしれない。
(侵襲性歯周炎、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス1(HSV-1)、エプスタインバールウイルス、病因論)
(この13年ほど前から、ウイルスが歯肉炎、歯周炎の一因とする報告がなされてきた。主に、HSV、EBVとHCMVが慢性、侵襲性歯周炎、歯肉炎、HIV関連歯周炎患者の歯肉縁下プラークから検出されている。そして、コントロールに比較して病変部でHSVの検出率が高いことや、活動部病変や深いポケットでウイルス量が多くなることが、歯周炎での新しい発病機序モデルとして、細菌-ウイルス混合感染が提唱されている。ウイルスが局所の免疫抑制を、また線維芽細胞や免疫担当細胞に直接的な細胞変性を引き起こしていると言うわけだ。
しかしウイルスの検出研究では、このモデルに否定的な結果もあり、結果の差は検出方法による差や対象とした集団(人種や年齢によってウイルスの検出率が異なる)に起因する可能性が指摘されている。
はたして検出されたウイルスは本当に歯周病の原因となっているのか。唾液中にもウイルスは存在しており、深いポケットは空間として広いので、たくさんウイルスが検出されただけという解釈もある。またB細胞やT細胞がウイルスに感染していることもある。炎症巣では細胞浸潤が著しいので、当然感染した細胞由来のウイルスが多く検出されてもおかしくない。つまり歯周病病変部では病気の発症や進展とは無関係にウイルス検出が多くなることもありうるというわけだ。
ドイツ人集団(中欧白人)の侵襲性歯周炎を対象として、リアルタイム定量PCRを用いたウイルス検出法では、歯周病の原因発病モデルとして細菌-ウイルス混合感染モデルを支持するような結果は得られなかった。)
(平成25年2月16日)
No.203
Aetiology, microbiology and therapy of periapical lesions around oral implants: a retrospective analysis.
Lefever D, Van Assche N, Temmerman A, Teughels W, Quirynen M.
J Clin Periodontol. 2013 Mar;40(3):296-302.
この研究の目的は(i)抜去歯あるいはインプラントの隣接歯に生じている歯内病変が、その後のインプラント根尖性病変の出現に影響しているかどうかを評価すること、(ii)異なった治療戦略の成績を後ろ向きに解析すること、(iii)根尖性病変にいかなる細菌が存在するかを決定すること、である。
インプラント処置のために抜去された歯とインプラント隣接歯における歯内状態が検索され、インプラントの根尖病変と関連づけがなされた。2000年以降治療された全ての症例について、その有無が評価された。最終的に、根尖病変から細菌学的サンプル(培養法)が解析された。
歯内治療の既往あるいは根尖部に根尖性病変があるとき、インプラント周囲の根尖病変は8.2%から13.6%であった(OR7.2)。隣接歯の根尖性疾患がある場合には、インプラント根尖病変の割合は25%に増加した(OR8.0)。最も優れた治療オプションを見いだすことはできなかった。細菌は21症例中9例で見いだされた。最も優勢だった菌種はP.gingivalisだった。
抜去する歯あるいは近接歯に歯内病変が存在する時、インプラント周囲に根尖性病変が発症する可能性は有意に増加する。
(歯科インプラント、インプラント不成功、細菌学、根尖性病変、逆行性インプラント周囲炎)
(慢性歯周炎に相当するインプラント周囲炎は理解できても、インプラントの先端に生じる逆行性インプラント周囲炎はちょっと理解しがたい。何故なら歯に生じる根尖性歯周炎の原因は根管内細菌にあるとされるが、インプラントには根管に相当するモノがないからだ。
イントロには、逆行性(根尖性)インプラント周囲炎は、インプラント歯冠側のインプラントに接する骨は正常であるが、フィクスチャー埋入後短期間でインプラントの先端に臨床的な症状を呈する病変、と定義されている。疼痛、腫脹、ろう孔などの症状を呈し、文献によればその発生率は0.26から1.86%。この疾患の原因は、骨削除の際の過剰な熱発生、歯内療法の失敗、隣在歯からの感染、インプラント埋入時既に存在した感染病巣、インプラント埋入時の過剰な加圧など種々様々に推測されている。またレントゲン的に病巣があるようにみえて、実はインプラント体の長さよりも過剰に長く切削した後の瘢痕組織の可能性もある。
この論文では、疾患の原因と推測される一つを隣在歯からの感染だと述べている。隣在歯に病巣がないときには逆行性インプラント周囲炎は1%なのに対して、病巣存在時は25%(オッズ比8.0)だったからだ。インプラント予定の隣在歯に根尖病変があるときは、根管治療をおこなって、病巣が消失するまでインプラント処置は延期すべきだと警告している。
今ひとつは抜歯する歯にあった根尖性病変が残存したという可能性だ。根尖病変があった場合には逆行性インプラント周囲炎のオッズ比は7.23という。病巣がある場合だけでなく、抜歯する歯に根管治療の既往があるときもよろしくないらしい。というのも病巣がなくとも、根管治療をされている場合には、組織学的な検索から26%に根尖部の炎症があるからと記述されている。そこで著者らは、抜歯時にバーなど切削器具を使ってでも根尖部の掻爬をおこなった方がよいと述べている。このような対応で逆行性インプラント周囲炎の発生率が著しく減少したらしい。
逆行性インプラント周囲炎への対応もまたコンセンサスの得られた治療法は確立していない。外科的に掻爬をして、根尖部の無毒化とGBRをおこなう方法を取り上げている。この方法を用いた36ヶ月フォローの研究では、26.7%が結局抜歯の憂き目にあっているという。今ひとつはapicoectomyだ。これでは5年経過、」39症例で97.4%が安定して機能したという。しかし、インプラントの根尖部を除去しなくても、掻爬とクロルヘキシジン洗浄、テトラサイクリン局所塗布で、36ヶ月問題なく良好な経過をしめした症例報告もあったと紹介している。また、外科的対応をおこなわず、全身的な抗生剤などの投与で改善の認められた症例報告もあるようだが、症例も少なく、有効な方法と言って良いかはわからないようだ。レーザー治療や光線力学療法(PDT)による治療もあるようだが、科学的なデータのない報告とのこと。
この逆行性インプラント周囲炎は、感染性の病変であろうというのが大方の見解なのだが、これを裏付ける科学的なデータはほとんど無いという。そう、これからだ。)
(平成25年2月15日)
No.202
Photoactivated disinfection using light-emitting diode as an adjunct in the management of chronic periodontitis: a pilot double-blind
split-mouth randomized clinical trial.
Bassir SH, Moslemi N, Jamali R, Mashmouly S, Fekrazad R, Chiniforush N, Shamshiri AR, Nowzari H.
J Clin Periodontol. 2013 Jan;40(1):65-72.
スプリットマウス二重盲検コントロール臨床研究により、中等度から重度慢性歯周炎に罹患した患者の付加的治療として、発光ダイオード(LED)を用いた光殺菌(PAD)を評価した。
中等度から重度慢性歯周炎に罹患した16人の患者が登録された。スケーリングルートプレーニング(SRP)の後、1/4顎が次の群のひとつに割り当てられた。LED群(625-635
nm、最大出力: 2000 mW/cm(2) )、光感受性物質群 (トルイジンブルー O, 0.1 mg/ml), PAD群 (光感受性物質+LED)とコントロール群(付加治療なし)。付加治療は7日後と14日後に繰り返された。プロービング時の出血、プロービング深さ、と臨床的アタッチメントレベルの臨床パラメーターがベースライン時、SRP後1と3ヶ月後に測定された。
1と3ヶ月後全ての群はベースライン時に比較して、全ての臨床パラメーターで有意な改善を示した(p<0.01)。いかなる時点間に置いても、今回の条件によるLEDを用いたPAD応用は、臨床パラメーターの変化に関して、群間に有意な差はなかった。
SRP単独に比較して、中等度から重度歯周炎と診断された患者において、今回の設定でLEDを用いたPADの応用は、臨床パラメーターに付加的な効果を示すことはなかった。
(歯周疾患、歯周ポケット、光化学療法、無作為コントロール研究)
(光線力学治療(PDT)の歯周治療における研究は、付加的効果ありとする報告と、効果なしとする報告とに分かれる。今回の研究は、「効果なし」に一票だ。このような差は何故生じるのだろう。光感作性薬剤の種類、光源、照射パラメーターなどが、相反結果の一部を説明するのかも知れない、との考察。
ビトロや動物実験ではある種の効果が示されている(例えば、チタニウム表面へのP.gingivalisLPS付着の不活性化。あるいはリガチャーによって惹起された歯周炎の骨吸収やサイトカイン発現の抑制など)。でも、PDTはバイオフィルムに対しては効果が少なく、さらに、浸出液や血液の存在によってもPDTの効果が減弱するという。光感作性薬剤、その濃度、作用時間、pH、浸出液の濃度、放射条件などなど、によっても結果が左右される。この研究はパイロットだ。パイロットで効果ありの気配があるのなら、規模を拡大すればよいのだろうが、どうだろう。PDTに、安定した、すばらしい結果がでるような、確立したプロトコールはまだない状態のようだ。)
(平成25年2月14日)
No.201
Efficacy of modified minimally invasive surgical technique in the treatment of human intrabony defects with or without use of rhPDGF-
BB gel – a randomized controlled trial.
Mishra A, Avula H, Pathakota KR, Avula J.
J Clin Periodontol. 2013 Feb;40(2):172-9.
本研究の目的は骨内欠損の治療に際しておこなう、リコンビナントヒト血小板由来増殖因子(rhPDGF-BB)ゲルの、局所応用を伴ったminimallyinvasive
surgical technique変法(M-MIST)の効果を評価することである。
二重盲検、無作為、コントロール研究で24人の被験者が参加した。テスト群はM-MISTとrhPDGF-BBで治療され、コントロール群はM-MIST
で治療された。
両群ともベースライン時と術後6ヶ月との間で、平均プロービング深さ(PD), 臨床的アタッチメントレベル(CAL)歯肉退縮, セメントエナメルジャンクションから欠損底部(CEJ-BD),欠損深さ(DD)セメントエナメルジャンクションから歯槽骨頂(CEJ-AC)に統計学的に有意差がみられた。群間比較では、アタッチメントレベルの獲得(CAL-G),
プロービング深さの減少(PD-R)と歯肉辺縁の変化、直線的骨増殖、(LBG),骨充填率、残存欠損深さ(residual DD)と歯槽骨頂位置の変化には統計学的な有意差はみられなかった。CAL獲得とLBGはそれぞれテスト群で3±0.89mmと
1.89±0.6コントロール群で2.64±0.67mmと1.85±1.18mmであり、統計学的な有意差はなかっった。
両群ともにみられた改善はrhPDGF-BBによるものではなく、新規の外科的手法に起因すると考えられた。
(骨内欠損、M-MIST、rhPDGF-BB)
(MISTは歯間部軟組織を保存するように切開を加え、頬側の歯肉弁を最小限で剥離し、骨内欠損部を掻爬する外科的処置方法だ。ここではマイクロ外科インスツルメントを用い、2.5xルーペを用いる。欠損部のデブライドメントはHu-Friedyのミニキュレット(SAS、たぶんミニ
ファイブと銘打たれているシリーズ)を用いて乳頭部下へアプローチしている。最後は6-0ポリプロピレンモノフィラメント縫合糸で縫合している。用いた薬剤は1%ヒアルロン酸ナトリウム基剤に0.3mg/mlrhPDGFゲルだ。
このMISTは歯間部軟組織を保存するために、血餅形成空間を保持して提供することができるとされている。過去にこのM-MIST単独とM-MIST+EMDを比較した研究があり、両者に差がなかったと報告されている。MISTであれば、EMDもPDGFも必要ないと、言わんばかりだ。)
(平成25年2月13日)