歯周病治療・歯周病研究 論文紹介p055(no.236-240)
No.240
Enhancing guided tissue regeneration of periodontal defects by using a novel perforated barrier membrane.
Gamal AY, Iacono VJ.
J Periodontol. 2013 Jul;84(7):905-13.
この研究の目的は、従来型の細胞閉塞性膜と新規修正穿孔性コラーゲン膜とを比較して、歯肉結合識(CT)と幹細胞を含む歯根膜を排除することが歯周組織の再生に正あるいは負の影響を与えるかどうかを決定するために企画された。
20人の非喫煙重度慢性歯周炎患者がこの研究に含まれた。各患者に存在する単一の深い骨内欠損が次のような二群にランダムに分けられた。閉塞性ウシコラーゲン膜(OMコントロール群、10部位)と修正穿孔ウシコラーゲン膜(MPMテスト群、10部位)である。プラーク指数、歯肉炎指数、プロービング深さ(PD)、臨床的アタッチメントレベル(CAL)、欠損底レベル(DBL)と歯槽骨頂レベル(CBL)がベースライン時に測定され、欠損における定量的な変化を評価するために治療後6および9ヶ月後に再評価された。
6および9ヶ月観察期間に、MPM処理部位はOMコントロール群に比較してPD減少およびCAL獲得において統計学的に有意な改善を認めた。6および9ヶ月の観察期間で2群間に統計学的に有意な差はなかったが、DBLは有意に減少した。両観察期間でOM群のCBLに比較してMPM群のCBLは有意に高い値を示した。2群間の術後の差は6および9ヶ月後にそれぞれ2および1.7mmであり、MPM処理群に好ましい結果であった。
この研究からGTRにおいて、OMに比較して新規MPMを用いるとより良好な結果が示された。これらの結果は幹細胞を含む歯肉CTや歯根膜細胞の膜通過と、これら細胞による歯周付着構成要素への分化から誘導された可能性がある。
(コラーゲン、結合識、GTR、歯周)
(GTRの理論は創面から歯肉CTを排除し上皮のダウングロスを抑制することである。このことにより、歯根膜や骨からの前駆細胞を欠損組織へ優先的に誘導させ、歯周組織の再生を促す。ところが、GTRでは骨膜もフラップとともに挙上され、メンブレンが欠損上を覆うために骨膜由来の間葉系幹細胞や骨芽細胞が創傷治癒に関与することができない。
著者らは上皮の抑制は良いが、骨膜と欠損の遮断はデメリットになっているのではないかと考えた。そこでGTR膜を穿孔させて上皮は抑制するが骨膜からの細胞は遊走可能とした、膜を応用したのだ。結果は上述の通り。
穿孔した膜のために骨縁上の血餅がメンブレンと機械的な嵌合力で安定化し、さらにフラップも同様に安定化しているのではないかと考察している。
本当に穴あけた方がよいのなら、GTR膜はこのようなタイプに置き換わるかもね。)
(平成25年8月10日)
No.239
Periodontal condition of patients with autoimmune diseases and the effect
of anti-tumor necrosis factor-alpha therapy.
Mayer Y, Elimelech R, Balbir-Gurman A, Braun-Moscovici Y, Machtei EE.
J Periodontol. 2013 Feb;84(2):136-42.
この研究の目的は歯周組織の臨床パラメーターおよび免疫パラメーターに及ぼす自己免疫疾患(AIs)の影響に加えて、抗腫瘍壊死因子α(TNF-α)の影響を評価することである。
36人のAI患者(12人の関節リウマチ[RA]、12人の乾癬性関節炎、と12人の全身性硬化症)が、12人の健常人(H)と抗TNF-α治療を受けている10人のRA患者(RA+)とともにリクルートされた。プラーク指数、歯肉炎指数(GI)、プロービング深さ(PD)とプロービング時の出血(BOP)を含む歯周組織指数が測定され、歯肉溝浸出液(GCF)がペーパーストリップスを用いて5つの最も深いポケットから採取された。TNF-αレベルはエライザ法を用いて解析された。群間の統計学的な比較は分散分析を用い、TNF-αと歯周組織指数との関連を調べるためにピアソン線形相関係数試験が用いられた。
三つのAI亜集団は臨床的および免疫学的パラメーターが非常に類似していた。GIはHおよびRA+群と比較してAI患者で大きい値を示した(それぞれ1.91±0.54、1.21
±0.67と1.45±0.30、 P = 0.0005)。AI患者はHおよびRA+群に比較して有意に多くのBOPを示した (それぞれ46.45%±17.08%、30.08%±16.86%と21.13%±
9.51%、 P = 0.0002)。Hと RA+ 群におけるPDはAI群よりも低い値を示した(それぞれ3.47± 0.33, 3.22± 0.41と3.91±
0.49 mm, P = 0.0001)。AI患者における4mm以上のPD部位数はHとRA+に比較してより低い値を示した (42.44 ± 17.5
vs 24.33± 15.62 vs 33.3± 6.6、P = 0.0002)。AI患者内のGCF TNF-α(1.67± 0.58 ng/site)
はH群の1.07± 0.33ng/siteやRA+群の0.97 ±±0.52 ng/siteに比較して高い値を示した(P =0.0002)。
PD とGCF中のTNFαレベル(r = 0.4672, P = 0.0002)BOP (r =0.7491、 P = 0.0001)あるいはGI
(r = 0.5420, P = 0.0001)と間には有意な正の相関が見られた。
AI疾患患者はHコントロール群よりも高い歯周炎指数およびGCF中のTNF-αレベルを示した。抗TNF-α治療はこの現象を緩和させるように思える。
(関節炎、リウマチ、慢性歯周炎、歯肉溝浸出液、全身、硬化症、腫瘍壊死因子-α)
(歯周病と慢性関節リウマチとの関連が指摘され、RA患者は歯周病リスクが高くなると言われている。また両疾患のサイトカインプロファイルが類似していて、ともにIL-1β、TNF-αの上昇とIL-10とTGFbetaの減少がみられる。そして重度RAの治療法の一つとして、TNF-α阻害剤の使用がある。さらに、歯周病動物実験では、TNF-α阻害剤が骨吸収や結合識の付着破壊を抑制することが報告されている。そこで、TNF抑制剤使用が歯周炎の炎症を減弱させるのではないかと、今回の研究とあいなった。
今回の研究対象のRA+患者で用いられているTNF-α阻害剤は、抗TNF抗体であるインフリキシマズだ。この薬剤で歯周炎が改善するなら、歯周治療薬としての活用も考えられ言及しているが、歯周治療薬としては副作用が強くてとても使えないであろう。著者らも承知しているようで局所応用と記載している。)
(平成25年8月3日)
No.238
Detection of oral bacterial DNA in synovial fluid.
Reichert S, Haffner M, Keyser G, Schafer C, Stein JM, Schaller HG, Wienke A, Strauss H, Heide S, Schulz S.
J Clin Periodontol. 2013 Jun;40(6):591-8.
歯周組織の細菌はリウマチ疾患の病因と関連している可能性があることから、Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Porphyromonas
gingivalis、Prevotella intermedia、Tannerella forsythiaとTreponema denticolaのDNAの存在について、関節リウマチ(RA)とコントロール患者から得られた滑液を解析した。
42人のRA患者(平均年齢 53.8 ±16.7才, 40.4% が女性) と114人のリウマチ疾患のないコントロール患者(平均56.1±15.2
才, 52.4%女性)が含まれた。滑液からDNAがQiaAmp kit (Qiagen, Hilden,Germany)を用いて分離された。上述した特定の細菌の16S
rRNA遺伝子に特異的なポリメラーゼ連鎖反応(PCRs)がおこなわれた。歯肉縁下細菌コロニーはmicro-Ident(R) test (HAIN-Diagnostik,
Nehren,Germany)を用いて解析された。
RA患者では、P.gingivalisのDNAがコントロールに比較して滑液中により多く見いだされた(15.7% vs 3.5%、p = 0.045)。コントロールよりも多くの患者が口腔内の歯垢と滑液中両方で、P.gingivalis由来のDNAが存在した。患者群内で、喪失歯の数はRAが原因で生じる運動障害を伴う関節の数と関連していた。
滑液中で見いだされる歯周病原性菌のDNAは関節炎の発病機序に関わっているかもしれない。
(分子検出、歯周炎、歯周病原性細菌、リウマチ疾患、滑液)
(関節リウマチの罹患率は、歯周治療のために紹介された患者では3.95%、歯周治療の問い合わせがなかった患者では0.66%で一般人が1%であっった。中等度から重度の歯周炎の罹患率はコントロールに比較してRAで有意に高かった。リウマチ因子あるいな抗環状シトルリン酸ペプチド抗体などに対して血清陽性であるRA患者は血清価陰性である患者に比べて中等度から重度である歯周炎になりやすい。これらの所見から歯周炎はリウマチに対するリスク因子である、との報告がなされてきている。
その関連性は、1)二つの疾患に対する共通のリスク因子の存在、例えば年齢、喫煙、ジェンダーなど、2)共通の免疫制御の不調和、3)共通の遺伝的リスク因子、4)歯周病原性細菌がリウマチの原因に寄与している可能性、などが考えられている。
滑液中にPgのDNAが検出されたことから、口腔内の歯周病原性細菌が関節に到達してRAの病因になりうることが示唆される。
しかし、滑液中のDNAは生菌由来か?Peptostreptococcus microsが滑液中から培養されたという唯一の報告がある一方、滑液中から歯周病原性細菌は培養されなかった、という報告もあるようだ。それで、生菌が口腔内から滑液に移動しているのではなく、DNAが血流を介して移動したという考察もありうる。
歯周病原性細菌による関節組織に対する直接的な影響に加えて、細菌はPg.の産生するペプチジルアルギニンデイミナーゼ (アルギニンを不可逆的にシトルリン化する)が関節組織に発現するタンパクをシトルリン化して、自己免疫疾患を引き起こすというメカニズムが考えられている。)
(平成25年7月29日)
No.237
Peri-implant versus periodontal wound healing.
Emecen-Huja P, Eubank TD, Shapiro V, Yildiz V, Tatakis DN, Leblebicioglu B.
J Clin Periodontol. 2013 Aug;40(8):816-24.
本研究の目的は1回法インプラント埋入後のインプラント周囲歯肉組織の治癒を調べ、歯周組織治癒と比較することである。
1回法インプラント処置を受けた非喫煙者において手術部位[インプラント(I)と隣在歯(T+)]の治癒が非手術歯(Tー)と比較された。歯周組織指数(PI、GI)が手術時と術後12週まで記録された。インプラント周囲浸出液(PICF)と歯肉溝浸出液(GCF)がサイトカイン、コラゲナーゼ、と阻害物質に対して解析された。データは線形混合モデル回帰分析と反復測定分散分析で解析された。
40人の患者(22女性、21-74才)が研究を終了した。手術部位のIのGIは1週後上昇し、初期の創傷治癒期間には有意に減少し(1-3週; p
=0.0003)、そして治癒後期には持続して減少した(6-12週) (p < 0.01)。PICF容量は12週に3分の1に減少した(p=0.0003)。IL-6、IL-8、MIP-1βとTIMP-1は手術部位で1週後に有意に上昇し、その後有意に減少した(p<0.016)。T+に比較してIでは、1週後IL-6、IL-8とMIP-1βレベルは~3倍までの高いレベルであり、TIMP-1レベルは63%高かった(p=0.001)。
歯頚部浸出液分子組成で決定されたように、インプラント周囲の歯肉創傷治癒は歯周組織の治癒とは異なっていた。観察された差は歯周組織と比較して、インプラント歯周組織は高い亢炎症状態を示しているように思える。
(歯肉溝浸出液、サイトカイン、インプラント、歯肉、歯周外科、創傷治癒)
(GIは差がないのに、インプラント周囲の亢炎症サイトカインの上昇がみられる。これは細菌に対するより強力な生体応答なのか、細菌感染に続発して生じる組織破壊の感受性を高めるということなのか。つまり、組織防御に寄与しているのか、組織破壊を助長しているのか。)
(平成25年7月22日)
No.236
Clinical efficacy of subgingivally delivered 1.2% atorvastatin in chronic periodontitis: a randomized controlled clinical trial.
Pradeep AR, Kumari M, Rao NS, Martande SS, Naik SB.
J Periodontol. 2013 Jul;84(7):871-9.
アトルバスタチン(ATV)は3-hydroxy-2-methyl-glutaryl coenzyme A 還元酵素の特異的な競合阻害剤である。最近、スタチンが抗炎症や骨刺激作用などの多様な効果を有することが示されている。この研究の目的は骨内欠損(IBDs)の治療にスケーリングルートプレーニング(SRP)の付加治療として1.2%ATVの有効性を検討することである。
60人の被験者が二つの治療群に無作為に割り当てられた。SRP +1.2% ATV とSRP + placeboゲルの2群である。ベースライン時、3、6、9ヶ月後に、修正歯肉溝出血指数、プラーク指数、プロービング深さ(PD)と臨床的アタッチメントレベル(CAL)を含む臨床的パラメーターが記録された。ベースライン時、6と9ヶ月後にコンピュター利用ソフトウエアを用いてIBDの骨再生についてレントゲン的な評価がおこなわれた。
3,6,9ヶ月でATV群の平均PD減少と平均CAL獲得がプラセボ群よりも大きい値を示した。9ヶ月後プラセボ群(1.82% ±1.32%)と比較するとATV群(35.49%
± 5.50%)でみられたレントゲン的骨欠損の骨再生平均パーセントは有意に大きい値を示した。
SRPの付加的治療として、ATVはIBDに対する処置に新しい方向性を提示すると期待される。
(慢性歯周炎、臨床研究、スケーリング、ルートプレーニング)
(スタチン類はコレステロールを下げる薬として開発されたのだが、シンバスタチン(リポバス)は第一世代スタチンで、アトルバスタチン(リピドール)は第三世代スタチンであり、売り上げ世界一を記録した時期があると聞く。この脂肪の減少薬が、血管新生や骨芽細胞分化促進に加えて、抗炎症、免疫制御、抗酸化、抗血栓症と内皮細胞の安定化作用もあることなどが示されている。シンバスタチンやアトルバスタチンを用いると慢性歯周炎患者の歯周ポケット減少するという報告もなされている。
今回の骨新生の理由として、局所投与されたATVによる炎症細胞の抑制やマトリックスメタロプロテアーゼの活性を抑制、酸化ストレスの減弱、BMP-2発現の増加、抗炎症、血管新生などが関与しているように考察している。
ATVによる骨代謝への作用は、骨形成刺激というよりは骨吸収の抑制によることが示唆されている。ATVはオステオプロテグリン分泌促進作用のあること、破骨細胞への直接的な作用のあることなども付記されている。
アトルバスタチンはシンバスタチンよりもコレステロール降下作用が強力である。この著者らが1.2%シンバスタチンを用いた同様の研究では、骨新生率が6ヶ月後32.54%であったのに対し、今回の1.2%アトルバスタチンは34.05%で、こちらの方が効果がちょっと高いのではないかという著者らのコメントであるが、どうだろう。)
(平成25年7月19日)