歯周病治療・歯周病研究 論文紹介p060(no.261-265)
No.265
Metabolic syndrome and gingival inflammation in Caucasian children with a family history of obesity.
Ka K, Rousseau MC, Lambert M, Tremblay A, Tran SD, Henderson M, Nicolau B.
J Clin Periodontol. 2013 Nov;40(11):986-93.
メタボリックシンドローム(MetS)とその要因が小児の歯肉炎症と関連しているかどうかを検索することがこの研究の目的である。
カナダ、ケベックの小児で肥満の自然経過を調べる進行中の縦断的研究を利用した、若年者コホートでケベックAdipose and Lifestyle
InvesTigationのベースライン受診者からの横断的解析である。解析サンプルには8-10才の448人の子供が含まれ、そのうち39%が過体重か肥満であった。MetSはInternational
Diabetes Federationの勧告に従い定義した。歯肉の炎症は歯肉溝浸出液(GCF)のTNFalphaレベルと歯肉出血の程度によって定義した。性特異的回帰分析が強力な交絡因子を補正して、MetSと歯肉炎症の関連を評価した。
25人の子供がMetSであった。MetSの少年はそうでない少年と比較して49.5% (p-value =0.001) 高いGCF TNF-alphaレベルで、13.7%
(p-value = 0.033)歯肉出血のある部位が多かった。さらに、MetSの5つの項目のうち3項目に対してのーつまり腹囲、空腹時 血漿トリグリセリド、収縮期血圧ー増加は少年のGCF
TNF-alphaの上昇と関連していた。少女ではそのような所見はみられなかった。
MetSと歯肉炎症との関連は小児期にすでに観察され、性による差があるように思える。
(小児、歯肉溝浸出液、歯肉炎症、メタボリックシンドローム、歯周病、腫瘍壊死因子-alpha)
(MetSと歯周病の関連のシナリオについては、これまでにも言われていることだが、次のようなことを想定している。歯周病病因菌がインシュリン抵抗性をもたらし、また内皮細胞依存性の血管拡張を抑制するTNF-alphaの産生を亢進させ、その結果として血糖値レベルや血圧の増加が生じる。Porphyromonas
gingivalisによって促進される血栓形成が血圧上昇をもたらす。LPSや亢炎症性サイトカインが脂質代謝に負の影響を与え、HDL-Cの減少やTG血漿レベルの増加など脂質レベルの変化をもたらす。
MetSと歯肉の炎症に関して、成人でも関連を示す報告があるが、小児期においてすでに両者には関連がみられているのかも知れない、ということです。
少年のみにMetSと歯肉炎症との差がみられたが、少女で差がなかったのはMetSのサンプル数が少なくて、統計学的に関連がでなかっただけかも、とのコメントがある。)
(平成25年11月19日)
No.264
Relationship between metabolic syndrome and diagnoses of periodontal diseases among participants in a large Taiwanese cohort.
Tu YK, D’Aiuto F, Lin HJ, Chen YW, Chien KL.
J Clin Periodontol. 2013 Nov;40(11):994-1000.
疫学的研究から歯周病に罹患している患者はメタボリックシンドローム(MetS)や糖尿病の罹患率が高くなることが示唆されている。我々はこの関連性を検索するために台湾における大規模健康診断データを用いた。
台北における大学病院で総合健康診断を受けた33,740人からのデータが解析された。歯科診査は経験のある歯科医がおこない、MetSの診断は全米コレステロール教育プログラム、Adult
treatment Panel IIIによって定義された基準に従った。
強力な交絡因子で補正した後、コントロールに比較して歯周炎群の女性と男性は血圧、血糖値、中性脂肪、と肥満度指数が高いレベルであったが、高密度リポ蛋白質は低レベルであった。歯肉炎と歯周炎群の女性はMetSと診断された中で高いオッズ比[それぞれ1.42
(95% CI: 1.30-1.56)と1.52 (1.41-1.63) ]を呈し、一方歯肉炎と歯周炎群の男性はMetSと診断された中で、オッズ比がそれぞれ1.06
(0.94-1.18)と1.04 (0.96-1.12)であった。
MetSと歯周炎の診断間には、台湾女性では小さいが統計学的には有意な関連がみられ、台湾男性では弱い関連がみられた。
(脂質代謝異常、高血圧、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、歯周炎)
(次の5要件、1)血圧が少なくとも130/85あるいは高血圧の治療を受けている、2)血清中性脂肪が少なくとも150mg/dl、3)高密度リポ蛋白質コレステロールが男性<40mg/dlで女性<50mg/dl、4)空腹時血糖が110mg/dlかそれ以上、5)腹囲が男性で>=90、女性で>=80あるいは肥満度指数27kg/m(2)かそれ以上、のうちいずれか3要件を満たす者がMetSと診断されている。
歯周病とMetS間の関連性について、女性で強く男性で弱いのは何故か。MetSと関連する因子として、歯周病は遺伝的因子や環境リスク因子に比較すると関連性が弱いと考えられる。男性は女性に比べると健康的でない要因を多く抱えるので、歯周病との関連が薄弱になっているのだろう、というのが著者らの考察である。)
(平成25年11月17日)
No.263
Efficacy of a new mouth rinse formulation based on 0.07% cetylpyridinium
chloride in the control of plaque and gingivitis: a 6-month randomized
clinical trial.
Costa X, Laguna E, Herrera D, Serrano J, Alonso B, Sanz M.
J Clin Periodontol. 2013 Nov;40(11):1007-15.
この研究の目的はプラークと歯肉炎症のコントロールにおける0.07%塩化セチルピリジウム(CPC)洗口液の効果を6ヶ月期間で評価することである。
中等度歯肉炎の成人被験者が選択された[辺縁プロービング(BOMP)出血40%以上]。細菌学的サンプルを回収して臨床パラメーター(プラーク、BOMPとステイン指数)を評価した後、プロフェッショナルプロフィラキシスがおこなわれて、被験者はテスト群(CPC洗口液)あるいはプラセボ群に無作為に割り当てられた。被験者は3および6ヶ月後に再評価された。
67人の患者(35テスト、32プラセボ)が解析に含まれた。6ヶ月後、テスト群では群内で有意なプラークの減少が認められた(0.691, p <
0.001)が、プラセボ群では認められなかった(0.181, p = 0.653)。6ヶ月後、平均BOMP値はテスト群では低かった(p = 0.052)。ベースライン時と6ヶ月後間の変化はプラークについても(p
= 0.002)、BOMPについても (p = 0.037)プラセボと比較するとテスト群で有意に高かった。細菌学的な影響がテスト群で、特にPrevotella
intermediaに対して、認められた。
機械的歯面研磨に付随して一日3回用いる、評価された0.07%CPCベースの洗口液は少なくとも6ヶ月はプラセボと比較して、プラーク蓄積と歯肉炎症を予防した。
(消毒薬、塩化セチルピリジウム、デンタルプラーク、歯肉炎、洗口液)
(欧米ではプラーク抑制効果のある洗口液としてクロルヘキシジンがゴールドスタンダードだが、日本では有効な濃度を含有する洗口液は販売できない。
CPCはクロルヘキシジン程に研究対象とはなっていないが、過去には0.05%、0.075%、0.01%のCPCでプラークや歯肉炎症の抑制効果のあることが報告されている。
臨床効果とは別に細菌学的な検索もおこなっているが、群間にはほとんど差が無い。総細菌数、P.intermediaとP.gingivalisの菌数、P.micraに検出割合、P.micraとP.intermediaの検出頻度でテスト群内に差がみらる傾向がある(一部はプラセボ群内でも差がある)。
難儀な点は、クロルヘキシジンと同様、味覚障害や歯の着色である。)
(平成25年11月16日)
No.262
Full-mouth disinfection as a therapeutic protocol for type-2 diabetic subjects
with chronic periodontitis: twelve-month clinical outcomes: a randomized
controlled clinical trial.
Santos VR, Lima JA, Miranda TS, Goncalves TE, Figueiredo LC,Faveri M, Duarte
PM.
J Clin Periodontol. 2013 Feb;40(2):155-62.
このランダム化コントロール臨床研究の目的は広汎型慢性歯周炎に罹患した、コントロール不良であるタイプ2糖尿病患者において、フルマウスディスインフェクション(FMD)によるクロルヘキシジン(CHX)応用の臨床的効果を評価することである。
38人の患者がFMD群(n=19)群:すなわち24時間以内にフルマウススケーリングとルートプレーニング(FMSRP)+CHXゲルの局所応用+60日間のCHX洗口、あるいはコントロール群(n=19):すなわち24時間以内にフルマウススケーリングとルートプレーニング(FMSRP)+プラセボゲルの局所応用+60日間のプラセボ洗口、の2群にランダムに割り当てられた。臨床パラメーター、糖化ヘモグロビンと空腹時血糖がベースライン時、処置の3、6、と12ヶ月後に評価された。全ての臨床パラメーターは両群ともに処置後3、6、および12ヶ月後に有意な改善がみられた(p
<0.05)。いずれの時期においても臨床パラメーターと血糖状態に両群間の有意な差はなかった(p>0.05)。
一次評価項目(例えば深いポケットにおける臨床的アタッチメントレベルの変化)を含む臨床パラメータに関して、処置12ヶ月後までにおいては治療間の差はなかった。
(クロルヘキシジン、慢性歯周炎、糖尿病、殺菌、ルートプレーニング、スケーリング)
(FMDの重要な目的は、短期間にSRPをおこなって同時にCHX応用をおこなうことで、未治療の歯周ポケット、口腔内の細菌生息地(舌、扁桃、唾液、粘膜など)や縁上バイオフィルムから既にスケーリングをおこなった部位へ歯周病原性菌がうつるのを予防することである。
1から3週間かけて1/4顎づつおこなう通常のSRPと短期間でおこなうフルマウススケーリングルートプレーニング(FMRP)とでは2型糖尿病患者の歯周炎に対する臨床的効果と血糖状態に及ぼす効果が同程度であった、と著者らはこれまでに報告をしている。そこで、さらにクロルヘキシジンまで応用して、フルマウスディスインフェクション(FMD)はどうか、ということだったが、残念ながら付加効果はなかった。過去にはFMDとFMSRPを比較すると14日から60日ではFMDの方に臨床的な改善が上回る傾向があったが、4-8ヶ月では差が無くなっていたという報告がある。今回の結果では統計学的有意差はないがむしろFMSRPの方が臨床上改善度合いが大きい傾向がみられた。しかしこれはベースライン時の臨床パラメーターの差が反映されているのではなんて、面白くもない考察がされている。
歯周治療で糖尿病の血糖値やHbA1cに変化が生じるとする報告があるが、今回はそのような傾向は示されなかった。サンプルサイズも小さいし、糖尿病のコントロールの悪い患者が対象だからか、というコメントでした。)
(平成25年11月15日)
No.261
Long-term follow-up of turned single implants placed in periodontally healthy
patients after 16 to 22 years: microbiologic outcome.
Dierens M, Vandeweghe S, Kisch J, Persson GR, Cosyn J, De Bruyn H.
J Periodontol. 2013 Jul;84(7):880-94.
今日インプラント治療における生存率は高いが、インプラント周囲の感染を含む多くの理由から長期経過の不成功が生じている。この研究の第一の目的は16から22年後の単独埋入インプラント周囲の細菌叢を検索することである。第二の目的は歯とインプラントとを比較して、細菌学的、レントゲン的および臨床パラメーターと関連づけることである。
単独インプラントを有する46人の患者が臨床診査を受けた。インプラントと反対側の天然歯の臨床データが集められた。レントゲン的骨レベルがインプラント周囲で測定された。細菌学的サンプルがインプラント、反対側歯、と1/4顎で1番深いポケットから採取された。サンプルは40種を含むDNA-DNAハイブリダイゼーションで解析された。0.05有意水準でウイルコクソンサインランク試験、マクネマー試験、スピアマンの順位相関係数とを用いて統計学的解析がおこなわれた。
平均フォローアップは18.5年(16から22年)。Tannerella forsythia (1.5x10(5))とVeillonella parvula
(1.02x10(5)がインプラントと歯の周囲でそれぞれ最も高い濃度を示した。Porphyromonas gingivalis、Prevotella
intermediaとT. forsythiaが歯よりもインプラント周囲で有意に多く存在した。Parvimonas micra、P. gingivalis、P.
intermedia、T. forsythiaとTreponema denticolaについては、インプラント周囲の平均数が 歯よりも有意に高かった。総DNA数は隣接面出血指数(r
= 0.409) と隣接面プロービング深さ(r = 0.307)と関連がみられた。プラーク指数あるいはレントゲン的骨レベルは他のいかなる因子とも関連が存在しなかった。
この研究では、歯周組織が健康な患者における単独インプラント周囲の細菌数は比較的低いレベルであった。病原性細菌は存在し、歯よりもインプラント周囲に多く存在していたが(5/40)、インプラントの大多数では進行性の骨吸収のない健康なインプラント周囲組織が存在した。
(細菌学、インプラント周囲炎、単独歯科インプラント)
(16年から22年という長期経過の中で、歯周炎が発症したのは46人中1人、インプラント周囲に骨吸収が生じたのは46人中2人だった。歯周病原性は高い検出率だったが、今回の被験者は歯周炎に罹患しにくい集団と考えられる。
Aggregatibacter actinomycetemcomitanas、Fusobacterium nucleatum, Staphylococcus
aureus, T.denticolaなどはインプラントの80%以上に検出されたが、インプラントの5%しか進行性の骨吸収は生じなかった。逆に進行性の骨吸収のあったインプラント周囲の細菌叢は他の健康な周囲組織を有するインプラントとは細菌学的なパターンに大きな差異がなかった。これはこれまでの報告とも一致した現象であった。つまりいわゆる歯周病原性菌が検出されるからと言ってインプラント周囲炎が必ずしも発症進行するわけではない。)
(平成25年11月13日)