歯周病治療・歯周病研究 論文紹介p065(no.286-290)
No.290
Subgingival bacterial burden in relation to clinical and radiographic periodontalparameters.
Pradhan-Palikhe P, Mantyla P, Paju S, Buhlin K, Persson GR, Nieminen MS, Sinisalo J, Pussinen PJ.
J Periodontol. 2013 Dec;84(12):1809-17.
この横断的研究は、心臓病学的問題があるために冠状動脈造影法を適応された患者において、そのため口腔内細菌叢に影響しているかも知れないが、歯肉縁下細菌プロファイルと歯周組織パラメーターとの関連を明らかにすることである。
プロービング深さ(PD)とプロービング時の出血(BOP)およびレントゲン的歯槽骨吸収(ABL)の評価に加えた口腔診査の期間に、プールされた歯肉縁下細菌サンプルが477人の被験者から回収された。29の口腔細菌レベルを決定するためにチェカーボードDNA-DNAハイブリダイゼーションアッセイが用いられ、このことから3種類の細菌コンプレックスに分類された。
病因細菌群における全ての細菌コンビネーションとレッドコンプレックスにおける各細菌種がABLのグレードと有意に関連していた(P <0.001)。Aggregatibacter
actinomycetemcomitansを除いて、病因細菌群の存在率と各細菌種のレベルも、PD4-5mmと>=6mmのPDの部位率、BOP、とABLと強い関連性を示した。グラム陰性口腔細菌のレベルはグラム陽性細菌のレベルと有意な相関を認めた(r
= 0.840, P <0.001)。多変量ロジスティック回帰分析では、病因細菌群の存在率、グラム陰性細菌とTreponema denticolaのレベル、と
Porphyromonas gingivalis およびT. denticolaの存在率はABLと有意な関連がある一方で、他の細菌コンプレックスとグラム陽性細菌のレベルには関連がなかった。
グラム会陰性およびグラム陽性細菌レベルは歯周組織パラメーターとパラレルであったが、病因と考えられる細菌のみがABLと関連していた。
(歯槽骨吸収、グラム陰性細菌、グラム陽性細菌、歯周ポケット、Porphyromonas gingivalis、Treponema denticola)
「今回の研究ではAaはABLと相関がなかったが、以前の著者らの研究で、唾液中のレッドコンプレックスとAaと共存がその後の歯周ポケットの増加につながるとの報告をしている。それゆえ、Aaは病因細菌群との共存で歯周病の進行に関与しているかもしれないとの考察がある。
オレンジコンプレックスや他の菌種でも歯周病パラメーターとの相関がみられたが、その強度は低い。またロジスティック解析では有意差がない。興味深いのは、C.gracilis、F.periodonticum、A.naeslundiiの3菌種ではABLとの逆相関がみられたようだ。本論文ではそれ以上の追求はなされていない。
(平成26年2月16日)
No.289
Meta-analysis of single crowns supported by short (<10 mm) implants in the posterior region.
Mezzomo LA, Miller R, Triches D, Alonso F, Shinkai RS.
J Clin Periodontol. 2014 Feb;41(2):191-213.
この研究の目的は臼歯部で単冠を支持するショート (<10 mm)インプラントの不成功と合併症、および可能性のあるリスク因子(RkF)を評価することである。
前向き研究が適格基準に従ってスクリーニングされて、著者らとコンタクトした。質の評価は標準化したプロトコールを用いておこなわれた。95%信頼区間を含む平均インプラント不成功率(FP)、生物学的および補綴学的不成功率(BFP/PFP)と辺縁歯槽骨吸収(MBL)がメタ解析のためのランダム効果モデルを用いて評価された。
中等度方法論的なクオリティがある16論文(平均スコア: 8 ± 3; 2-14)からデータが集積された。要約すると、762ショートインプラントが360人の患者で120ヶ月フォローされた (平均フォロー: 44 ± 33.72ヶ月; 平均ドロップアウト率: 5.1%)。平均FP、BFP、PFPとMBLはそれぞれ5.9% (95%CI: 3.7-9.2%)、3.8% (95%CI: 1.9-7.4%)、2.8% (95%CI: 1.4-5.7%)と0.83 mm (95%CI: 0.54-1.12 mm)。定量的な解析から、下顎への設置(p = 0.0002)と長さ?8 mm (p = 0.01)のインプラントはFP、BFPとMBLが増加していた。一方、定性的評価から、クラウンーインプラント比MBLに影響を与えないことが示された。
臼歯部でショートインプラントに支持された単冠は不成功率、生物学的/補綴学的合併症や骨吸収が少なく、予知性のある処置オプションである。
(メタ解析、部分的無歯顎患者、臼歯部、ショートインプラント、単冠、システマティックレビュー)
「こちらは2014年のショートインプラントに関するレビューだ。
インプラントの直径が大きくなるとショートインプラントの骨との接触面積の狭さを代償するように思えるのだが、実はその臨床成績はむしろ低下することが報告されている。このレビューでもこれと一致する所見を述べている。先のレビューでも同様の事が述べられていた。それゆえインプラントの直径を大きくする方法は推奨される方法ではないようだ。直径が大きくなると、既存の骨壁厚さが減少するからではないか、ということ。
前のレビューでは上顎より下顎の方が生存率が高い、とのことであった。こちらの解析からは上顎の方が良い結果と主張している。インプラントの不成功は骨質やインプラントの長さのみで決まるものではなく、例えばインプラントの表面性状も大きな影響因子の一つである。今回のレビューで用いられているインプラントの85.56%が粗造表面処理である。表面が粗造に処理されたインプラントは下顎より上顎で成績のよいことが報告されおり、このような事象が影響しているかも。
しかしショートインプラントの表面荒さについては、粗造表面の方が生存率が高いとするレビューがある一方で、今回のレビューのように有意差はないとする報告もある(今回のレビューでは有意差はないが、粗造表面インプラントの方が不成功率が高い、という結果であった)。
結論として述べられているのは、
・ショートデンタルインプラントに支持された単冠は、下顎への導入よりも上顎への導入の方が予後がよい
・表面荒さや外科テクニックはショートインプラントの不成功割合や生物学的合併症に影響を与えない
・インプラント周囲炎、重度の喫煙、や持続する歯周炎はショートインプラント喪失のリスク因子である。
・臼歯部で単冠を支持するショートインプラントに対する、全身疾患、骨質や初期固定の実際の影響は不明である
・ショートインプラントに支持された単冠のクラウン/インプラント比の増加は辺縁歯槽骨の喪失に影響を与えず、インプラント不成功率増加や技術的な合併症出現と関連性があるとは言えない
・外科的な対応がインプラントの安定性を著しく損なう可能性があるために、インプラント導入部位への外科的処置はショートインプラントにとって重要な事項である」
(平成26年2月11日)
No.288
Do implant length and width matter for short dental implants (<10 mm)? A meta-analysis of prospective studies.
Monje A, Fu JH, Chan HL, Suarez F, Galindo-Moreno P, Catena A, Wang HL.
J Periodontol. 2013 Dec;84(12):1783-91.
この前向き臨床研究のメタ解析は、デンタルインプラントの長さと幅がショート(<10mm)インプラントの生存率に及ぼす影響を決定するためにおこなわれた。
1998年11月から2012年3月までの英語で出版された関連研究に対してPubMedデーターベース電子検索がおこなわれた。選別した研究はショート(<10mm)インプラントの成功率あるいは生存率を検討する、明瞭な目的を持ったランダム化臨床研究、ヒト臨床研究、あるいは前向き研究であった。
8研究が組み入れ基準を満たし、その後解析された。トータル525本のショート(<10mm)デンタルインプラントが解析され、そのうち253本は直径3.5mm(48.19%)、
151本は4.0 mm (28.76%)、90本は4.1 mm (17.14%)、 21本は4.8 mm (4%)で、10本は 5.1 mm
(1.9%)であった。このメタ解析に含まれる全てのインプラントは12から72ヶ月のフォロー期間があった。含まれる研究は生存率とインプラントの直径について報告していた。6研究は”ショートインプラント(7~9mm)”であり、残りは”エクストラショートインプラント(<=6mm”であった。エクストラショートインプラントとショートインプラントに対する5年評価不成功率はそれぞれ1.61%と2.92%であった。(z
= -3.49, P <0.001, 95% confidence interval = 0.51% to 4.10%)。さらにインプラントが幅広くなると、不成功率は高くなった(estimated
failure rate = 2.36%, 95% confidence interval = 1.07% to 5.23%)。
インプラントの長さも幅もショートインプラントの生存率に有意な影響を与えていないようだ。とは言うものの、さらによくデザインされたランダム化臨床研究がこれらの所見を確認するために必要だ。
(歯槽骨吸収、デンタルインプラント、エビデンス)
「短足インプラントである。2013年の論文で、気乗りしなかったのでほっちゃらかしていたが、今年になってJCPでも似たようなレビューがでたので、じゃあということで紹介する。まずはこの2013年の方を先に見てみよう。
最近のレビューでは、10<mmインプラントの生存率はフォロー期間3.2±1.7年で99.1%だという。後ろ向き研究ではショートインプラントは通常のインプラントに比べるとその不成功率が有意に低い、という報告もある。ただ、ショートインプラントの不成功を最小限に抑えるために、形状を変更したり、新しいスレッドデザインや材料を取り入れたり、表面形状など種々の改良がなされている。
インプラントが短いなら、幅を取ることで代償しようという発想がある。しかし、ショートインプラントの生存率はその幅に統計学的に有意な影響を受けなかったようだ。しかし不成功率は直径の増加とともに大きくなっている。他のレビューでも、8mm以下で狭い幅のインプラントに比較すると幅が5mmワイドなインプラントはより好ましくない結果が報告されている。報告者によっては、長さより直径の方が重要とも、機能的負荷において幅は長さより重要さが劣るとも主張している。
このレビューでの解析では、長さも幅もショートインプラントの生存率に有意差のある影響は認められなかった。ただし、7-9mmのインプラントは6mm以下のインプラントよりも不成功率が高かったので、エクストラショートインプラントの方が骨増生のための外科処置を避けるためには予知性があると言えよう。てな、考察でした。」
(平成26年2月11日)
No.287
Intrabony defects, open-flap debridement, and decortication: a randomized clinical trial.
Crea A, Deli G, Littarru C, Lajolo C, Orgeas GV, Tatakis DN.
骨髄穿孔(IMP)は再生歯周外科処置でしばしば用いられる。しかしながら、外科処置にIMPを組み込むことの実際の有用性については明確な報告がないままである。このランダム化コントロール研究の目的は、骨内欠損のフラップデブライドメント(OFD)処置の成績に対するIMPの寄与を検索することである。
2壁性、3壁性、複合2および3壁性骨内欠損を有する42人の慢性歯周炎患者が治療された。各部位は二つの群の一つにランダムに割り当てられた:コントロール(OFD単独)あるいはテスト(OFD+IMP)である。歯間乳頭保存フラップが翻転され、欠損が徹底的にデブライドメントされた。コントロール群ではデブライドメントの後にフラップの完全な一次閉鎖が確実になされた。テスト群ではラウンドバーを用いて皮質欠損壁を貫通させることにより、IMPがフラップ閉鎖の前におこなわれた。臨床的およびレントゲン的パラメーターがベースライン時と治療後12ヶ月に評価された。
ベースライン時、群間に統計学的な有意差はなかった。12ヶ月後、プロービング深さの減少、臨床的アタッチメント(CAL)獲得と骨レベル(臨床的およびレントゲン的)に関して、両群ともに有意な改善があった。コントロール群に比較して (1.76 ± 2.71 mm, P <0.03; 62%, P = 0.024)、テスト群では臨床的骨の再生(3.07 ± 1.74 mm)とCAL獲得?2 mmの出現頻度 (93% of sites)が有意に大きかった。テスト処置群の有益性は特に下顎部位で明白であり、そこではODF+IMP処置はOFDによって得られたレントゲン的骨再生の二倍であった。
骨内欠損治療に用いられるOFD処置に、IMPを加えることで統計学的および臨床的に有意な臨床的およびレントゲン的成績の有意な亢進が認められた。
歯槽骨吸収、骨再生、歯周アタッチメントロス、歯周炎
「皮質骨穿孔は是か非か??これまでIMPの有用性を臨床的にキチンと示した論文はなかったとのこと。IMPとGBRについての過去のレビューがあり、その中では、GBRの処置の一部としておこなわれるIMPが有効である、と判断する明瞭なエビデンスはない、と述べられている(ただデメリットがないなら、IMPをおこなってもいいだろうとは述べられているようだ)。
もともとIMPはコルチコトミー(歯槽骨皮質骨切除)、骨移植とともに、矯正に際して歯の移動を促進するための一方法として用いられた。ただIMPの臨床成績に対する評価は厳格には検討されず、動物実験や症例報告から、歯間部コルチコトミーのみが効果的とされたようだ。そしてさらに、歯槽骨の構造を一部破壊することで望むような代謝反応が生じる可能性が示唆されたのだ。
動物実験からIMPは海綿骨代謝ならびに歯根膜活性を高めることが示されている。その分子レベルでのメカニズムの詳細は不明だが、動物実験からRANKリガンドの増加が重要なプロセスであるとの報告がある。また骨代謝活性の亢進だけでなく、血餅の形成や成熟にも好ましい環境を提供するのかも知れないと考察されている。
IMPが簡単にできて、時間、コストや再生治療へのリスクがあまりないなら、外科処置時にIMPをルーティンな手順として組み入れることを阻むことはなかろう、と結論づけている。
最後に実際の手技であるが、1mm径のラウンドバーで欠損の皮質骨壁を骨髄に達するまで穿孔させている。穿孔部位間隙は1mm以上として、骨髄から十分な血液が得られるように深く掘り下げよ。」
(平成26年2月7日)
No.286
Is there a positive effect of smoking cessation on periodontal health? A systematic review.
Fiorini T, Musskopf ML, Oppermann RV, Susin C.
J Periodontol. 2014 Jan;85(1):83-91.
歯周組織に及ぼすタバコの悪影響は広く報告されているが、歯周組織の健康に対する禁煙の有益な影響についてはほとんど知られていない。このシステマティックレビューの目的は禁煙が歯周病の進行と歯周治療に対する反応に及ぼす影響を評価することである。
二人の独立したレビューヤーがタイトル(n=118)、アブストラクト(n=24)、と論文全体の選択(n=5)を通じてレビュー過程を遂行した。情報源にはMedlineとEMBASE
データベース (2012年12月まで) と選択した研究の参考文献が含められた。喫煙者と禁煙者間の歯周病の進行程度を比較した前向き研究と禁煙プログラム単独あるいは歯周治療と組み合わせて影響を評価した臨床研究が含まれた。少なくとも1年のフォロー期間が論文取り込みに必要であった。
妥当と思われる331の論文のうち、5研究が組み入れ基準を満たしていた。研究の異質性のために、メタ解析はおこなわれなかった。一つの研究が、6年間に臨床的アタッチメントロス(AL)?3 mmの進行が禁煙者よりも喫煙者でおおよそ3倍高いことを報告していた(P <0.001)。二つの研究(10年と20年フォロー)で喫煙者と比較して、禁煙者で30%程度のレントゲン的骨吸収が減少してることが観察された。非外科的歯周治療を受けた被験者では、禁煙者は非禁煙者/禁煙失敗者よりもプロービング深さがより減少しやすかった(P<0.05)。ALには差は見られなかった。
限られた利用できるエビデンスを基にすれば、禁煙は歯周炎の発症や歯周組織の治癒に好ましい影響を与えるようだ。
(歯槽骨、歯周アタッチメントロス、歯周炎、レビュー、禁煙、喫煙)
「タバコは歯周病を悪化させ、歯周治療も損なわせる。だから禁煙しましょう、なんだけど、じゃあ、禁煙したら、たちまち非喫煙者と同じなのか。影響が残るのか否か、これがはっきりしない。
歯の喪失を指標にした研究では、禁煙者は非禁煙者と比較して有意に歯を喪失するリスクが低く、時間経過とともにリスクが減少する。そして、そして、禁煙者は10年経過して、ようやく喫煙したことのない人と同じリスクになるという。10年!長いね。禁煙するなら早くしようね、って。心血管系疾患や癌ではどうか。これらの疾患リスクは禁煙後数年で著しく減少するが、非喫煙者と同等のリスクになるのに10-20年の歳月が必要だという。これらの知見を会わせ考えると、歯周病の悪化リスクは禁煙により2,3年以内で大きく減少して、非喫煙者レベルには10年以内程度だろうと著者らは考察している。
そもそも禁煙の影響を調べる臨床研究はしにくかろう。歯周病患者を集めてランダムに、はい貴方は禁煙してください、こちらの方は喫煙し続けるんですよ、なんて倫理上問題があろう。また禁煙に割り振られた人も本当に禁煙できるかどうか、わかったもんじゃない。
喫煙が歯周病のリスクであるとの報告は多くかまびすしいが、禁煙した際の”ご利益”についてのエビデンスは案外少ないようだ。」
(平成26年2月4日)