歯周病治療・歯周病研究 論文紹介p040(no.161-165)
No.165
Benefits of early systemic antibiotics in localized aggressive periodontitis: a retrospective study.
Beliveau D, Magnusson I, Bidwell JA, Zapert EF, Aukhil I, Wallet SM, Shaddox LM.
J Clin Periodontol. 2012 Nov;39(11):1075-81.
局所型侵襲性歯周炎の治療に全身的抗生物質投与が含まれるようだが、治療のどのステージで抗生物質が最も効果的かについては未だ明確にはされていない。
この後ろ向き解析は臨床的パラメーターと歯肉溝浸出液(GCF)の炎症性メディエーターについて、初期に用いた場合と遅延性に用いた場合の抗生物質治療を比較することである。
ベースライン、治療後3と6ヶ月に、臨床パラメーター[プロービング深さ(PD)、臨床的アタッチメントレベル(CAL)、プロービング時出血(BoP)とプラーク]とGCFが、機械的治療の直後(ImA)あるいは3ヶ月後(DelA)に7日間抗生物質療法を受けたLAP被験者から採取された。
両群とも治療後6ヶ月に有意なCAL減少が認められたが、ImAのみが3および6ヶ月後の両時点で平均PDの減少と3ヶ月後にCALとBoPの減少を示した。加えて、ImAのGCFメディエーターは機械的治療後3ヶ月でより高い値を示していたが、抗生物質治療後の6ヶ月時点で有意に減少した。
ImAとDelAはともに治療後6ヶ月までにCALの改善を示し効果的であった。しかし、ImAは治療の早い段階で全ての臨床的パラメータでより良好な改善を示し、同時にGCF中の炎症メディエーターが低レベルであった。
(侵襲性歯周炎、炎症メディエーター、全身的抗生剤、治療、投与時期)
(論文の考察や私の感想など:抗生物質併用療法演目の3題目。システマティックレビューで抗生剤の投与時期について指摘した。これはその時期について検討を加えた論文だ。2サイクルのSRPを行って、初回時か二回目のどちらの抗生剤併用がより有効かということを調べている。
ベースライン時→3ヶ月後→6ヶ月後のPDは、DelAでは5.85→5.38→4.73に対しImAでは5.67→4.30*→ 3.81*であった(*はベースライン時との比較でも群間でも有意差あり、p<0.05)。その他のデータもあるが、結論をまとめて言うと、最初から抗生剤を併用してSRPをおこなった方が臨床データ(PD,CAL)もGCFメディエーター(TNFα、IFNγ、IL-6、IL-β、MIP-1α、IL-10、IL-2、IL12p40)も改善傾向が強い。しかし、2回目の併用療法でもそれなりに有効だった。
SRPと併用して抗生物質を用いるなら、早い時期から徹底的に細菌をたたく方がより良好な臨床効果を得られる、ということのようです。)
(平成24年10月27日)
No.164
Systemic ornidazole as an adjunct to non-surgical periodontal therapy in the treatment of chronic periodontitis: a randomized, double-masked, placebo-controlled clinical trial.
Pradeep AR, Kalra N, Priyanka N, Khaneja E, Naik SB, Singh SP.
J Periodontol. 2012 Sep;83(9):1149-54.
この臨床研究の目的は中等度から重度の慢性歯周炎患者に対し、フルマウスのスケーリングルートプレーニングを行い、合わせてオルニダゾールの全身的投与した場合の付加的臨床効果を評価することである。
4mm以上のプロービング深さ(PD)を有する歯が12本以上の被験者58人が選別された。全ての被験者は、2群に割り当てされる前に1週間厳格な口腔清掃指導を受け、0.2%クロルヘキシジンマウスリンスの使用を指導された。30人の被験者がフルマウスSRP+プラセボ(コントロール群)に、28人がフルマウスSRP+ORN(テスト群)にランダムに割り当てられた。臨床評価項目はプラーク指数、歯肉炎歯数、臨床的アタッチメントレベル(CAL)とPDであった。
50人の被験者は6ヶ月迄で評価された。6ヶ月後テスト群はコントロール群(0.84mm)に比較して有意に大きい平均CAL(2.92mm)であった(p<0.05)。
歯周炎の成人患者に対してSRPを含む歯周初期治療と併用するORNの全身投与は、歯周初期治療単独よりも有意に良好な臨床結果を得ることができた。
(抗菌薬、スケーリング、歯周炎、ルートプレーニング、統計)
(論文の考察や私の感想など:抗生物質併用治療の二演目。
オルニダゾールはメトロニダゾールと同じ5-ニトロイミダゾール系列に属する抗生剤で、メトロニダゾールと同等かそれ以上の抗菌効果があるといわれている。メトロニダゾールよりも血清中の半減期が長い(MTZ8.4時間に対し、ORN14.4時間)という特徴がある。。
メトロニダゾールはアモキシシリンと併用して用いられることが多いようなのだが、今回の研究ではアモキシシリンと併用しなくてもORN単独でも十分な効果があるということだ。この研究では直接比較していない。最近でてきた下記の論文ではメトロニダゾール単独とアモキシシリンの併用とを直接比較している。単独も併用もともに効果があるという。
Metronidazole alone or with amoxicillin as adjuncts to non-surgical treatment of chronic periodontitis: a 1-year double-blinded, placebo-controlled, randomized clinical trial.
Feres M, Soares GM, Mendes JA, Silva MP, Faveri M, Teles R, Socransky SS,
Figueiredo LC.
J Clin Periodontol. 2012 Aug 16. [Epub ahead of print]
CONCLUSION:
Treatment of generalized ChP is significantly improved by the adjunctive use of MTZ+AMX and MTZ.
これら2論文をみると、アモキシシリンを併用しなくても、SRP+メトロニダゾール系単独でも有効に思える。日本では用いることができないけど。)
(平成24年10月27日)
No.163
Effectiveness of systemic amoxicillin/metronidazole as adjunctive therapy
to scaling and root planing in the treatment of chronic periodontitis:
a systematic review and meta-analysis.
Sgolastra F, Gatto R, Petrucci A, Monaco A.
J Periodontol. 2012 Oct;83(10):1257-69.
スケーリングルートプレーニング(SRP)の付加的療法として、アモキシシリンとメトロニダゾール(AMX/MET)の併用は慢性歯周炎の治療として提唱されている。しかし、その有効性と安全性については未だ明確ではない。このメタ解析の目的はSRP単独と比較し
てSRP+AMX/METの有効性を評価することである。
最初の報告から2011年8月までにいたる論文まで8つのデータベースの電子検索と過去15年間の国際歯科雑誌の手検索がおこなわれた。臨床的アタッチメントレベル(CAL)獲得、プロービング深さ(PD)減少、二次評価項目、と有害事象について解析された。ランダム効果モデルが抽出データを蓄積するために用いられた。95%信頼区間を伴う加重平均の差(WMD)が連続データに対して計算された。不均一性はコクランx2とI2解析で評価された。有意水準はp<0.05に設定された。
取捨選択の後、4つのランダム化臨床研究が選ばれた。メタ解析の結果、SRP+AMX/METによる有意なCAL獲得(WMD = 0.21; 95%
CI = 0.02 to 0.4; P <0.05) とPD減少(WMD =0.43; 95% CI = 0.24 to 0.63; P
<0.05)とが示された。プロービング時の出血(WMD= 10.77; 95% CI = -3.43 to 24.97; P >0.05)
あるいは排膿 (WMD = 1.77; 95% CI=-1.7 to 5.24; P >0.05)については有意差は無かった。
このメタ解析の所見はSRP+AMX/METの有効性を指示しているように思える。しかし今後の研究によりこの結果を確認する必要がある。
(アモキシシリン、慢性歯周炎、メタ解析、メトロニダゾール、ルートプレーニング)
(論文の考察や私の感想など:抗生物質併用療法噺を3題。まず一題目にシステマティックレビューをもってきた。
SRPの併用療法としての抗生物質といえば、アモキシシリンとメトロニダゾールの組み合わせが、ゴールドスタンダードといえよう、ただし海の向こうでは。
SRP+AMX/METは有効と言ってよいようだが、そのレシピ、すなわち投与時期、用量、服用期間などについては明確な基準がない。どのような条件が最も適切か、あるいは適応などについてキチンと情報を提供できるような研究論文はほとんどないのではないか。また種類の異なる抗生物質を比較して検討した論文もあまりみない。それでも微妙に違うが似たような投与方法で抗生物質の併用療法についての臨床研究はおこなわれているね。
独立して紹介するのも食傷気味なので、最近のレポートをここに足しておこう。
The effects of adjunctive metronidazole plus amoxicillin in the treatment of generalized aggressive periodontitis: a 1-year double-blinded, placebo-controlled, randomized clinical trial.
Mestnik MJ, Feres M, Figueiredo LC, Soares G, Teles RP, Fermiano D, Duarte PM, Faveri M.
J Clin Periodontol. 2012 Oct;39(10):955-61.
この論文の結論:広汎型侵襲性歯周炎の非外科的治療はメトロニダゾールとアモキシシリンの付加的使用により1年後まで著しく改善された。)
(平成24年10月27日)
No.162
Trefoil factors in saliva and gingival tissues of patients with chronic periodontitis.
Chaiyarit P, Chayasadom A, Wara-Aswapati N, Hormdee D, Sittisomwong S, Nakaresisoon S, Samson MH, Pitiphat W, Giraud AS.
J Periodontol. 2012 Sep;83(9):1129-38.
トレフォイルファクター(TFF)は組織ダメージや免疫反応に対して、細胞防御に関わる分泌分子である。TFFは唾液や口腔組織に検出されるが、臨床的な意義について、慢性歯周炎患者ではこれまで検討されてこなかった。この研究の目的は唾液と歯肉組織のTFF発現が歯周病の病因と関連性があるかどうかについて検討することである。
唾液と歯肉組織サンプルが25人の非歯周病被験者と25人の慢性歯周炎(CP)患者から収集された。エライザアッセイと免疫組織化学法が唾液と歯肉組織におけるTFFs(TFF1、TFF2とTFF3)の発現を評価するために用いられた。歯周病原細菌はリアルタイムPCRによって定量された。
CP患者ではTFF1とTFF3濃度の減少がみられた(それぞれP = 0.003 と P <0.001)。CP患者の歯肉組織ではTFF3発現の減少が示された(P=0.041)。唾液TFF3濃度レベルはPorphyromonas gingivalisとTannerella forsythia(以前Bacteroides forsythusとして知られた)の数と負の関連がみられた。
唾液と歯肉組織によるTFFsの発現の変化がCP患者では見いだされた。この結果はTFF3が歯周病の病因と関連性があることを示唆している。
(エライザ法、免役組織化学、歯周炎、唾液、トレフォイルファクター )
(論文の考察や私の感想など:トレフォイルファクター(TFF)は腸管のムチン産生上皮から産生されるペプチドで、粘膜の健常性維持や障害修復に重要な役割を果たしている。このペプチドは口腔粘膜や耳下腺管からも分泌されることが知られていて、血清、唾液や生体内の種々の体液中に存在が確認されている。
ある種の慢性疾患で、血清中の濃度変化がみられ、ピロリ菌によって惹起される胃炎患者の消化管でTFFの発現に変化が見られるという。しかし、これまで歯周炎の病因とTFFとの関連についての研究はない。
TFF3はP.gingivalisとT.forsythia量と負の関連がみられた。つまり両菌種はTFF3発現にネガティブな影響を与えている可能性がある。ひとつはPgやTf由来のビルレンス因子であるgingipainやkarilysinがTFFを分解しているような可能性が考えられる。今ひとつはTFF遺伝子発現を直接あるいは間接的に抑制している可能性もある。と考察ではのべられている)。
(平成24年10月26日)
No.161
Local drug delivery of alendronate gel for the treatment of patients with chronic periodontitis with diabetes
mellitus: a double-masked controlled clinical trial.
Pradeep AR, Sharma A, Rao NS, Bajaj P, Naik SB, Kumari M.
J Periodontol. 2012 Oct;83(10):1322-8.
アレンドロネート(ALN)は全身的使用で骨密度を増加させ、歯周ポケットへの局所投与で骨形成を増加させることが見いだされている。この研究の目的は2型糖尿病(DM)に罹患する慢性歯周炎(CP)患者で、骨縁下欠損の治療にスケーリングルートプレーニング(SRP)の付加的治療として、ドラッグデリバリーシステム1%ALNゲルを応用した際の効果をプラ
セボゲルと比較して検索することである。
70部位の骨内欠損が1%ALNあるいはプラセボゲルで治療された。臨床パラメーターはベースライン、2ヶ月、6ヶ月後に記録された。レントゲン的パラメーターはベースライン時と6ヶ月後に記録された。ベースラインと6ヶ月後の骨欠損充填レベルはイメージ解析ソフトウエアを用いて標準化レントゲンで計測した。
2ヶ月と6ヶ月後のALN群による平均プロービング深さ(PD)減少と平均臨床アタッチメントレベル(CAL)獲得はプラセボ群よりも大きかった。さらに、プラセボ群(2.8%±1.61%)と比較して、ALN群(44.2%±11.78%)ではより大きな平均パーセント骨再生が認められた。
2型DMとCP患者における、SRPの付加的治療である歯周ポケット内への1%ALNの局所投与はプラセボと比較してPD減少、CAL獲得、と骨再生の有意な改善がみられた。それゆえ、ALNは近い将来歯周治療に新たな展開を提供するものとして、SRP付加的治療に用いられるだろう。
(アレンドロネート、骨再生、慢性歯周炎、糖尿病、再生)
(論文の考察や私の感想など:このインドのグループによるアレンドロネートを用いた論文は、これが3報目である。第一報でCP、、第二報でAgPときて、今回はDM+CPとなる。1%ALN投与によるPD減少量はCP、DM、AgPでそれぞれ4.48±1.27、4.56±1.73と3.88±1.39mmであり、CAL獲得は4.03±0.84、3.59±1.21と3.27±1.11となっている。ちなみに今回の研究によるプラセボのPD減少は2.36±0.59で、CALは1.61±0.69mmであった。
ALNは外科的にではなく、歯周ポケットに直接投与しているだけである。臨床症状の改善が悪い難治性歯周炎では病原性の強い菌が残存している、という論文がある一方、SC/SRPの付加的治療としてではあるが骨代謝に関与する薬剤がこれほどに臨床症状を改善させている。
糖尿病も改善しているのか知りたいところだが、この著者らはその点は興味がないようで、HbA1Cや空腹時血糖はベースライン時のみの計測だ。)
(平成24年10月25日)